花嫁指南学校

 風呂から上がってきたばかりの陶子の肌はますます艶々と潤っている。寮の共同浴場から戻ってきたルームメイトに恵梨沙がハーブティーを淹れてくれた。マグカップを手に持ち、二人はそれぞれのベッドに腰を掛ける。

「えーと、何から話せばいいかしら。そうね。藤本先生と私の関係はあなたのご想像どおりよ」

 陶子の様子はいつもと同様に落ち着いている。

「いつから付き合ってたの?」

 恵梨沙がたずねる。

「短大に入ってからかな。高等部を出てメイクをするようになってからよ。初めて先生にヘアメイク担当してもらった時、お互い感じ合うものがあったの」

「そうだったのね。だったら何故あなたは学園の薦める男性と婚約をしたの? あなたは先生のことが好きなんでしょう。たとえあなたの恋人が女の人だとしても私は構わないわ。でも、あなたが自分の恋をあきらめて好きでもない人と結婚するのは嫌なの」

「ありがとう。あなたは私のことを心配してくれているのね。あなたは学園が敷いたレールを外れて自分で運命を切り拓いた人だものね。そんなふうに考えるのもわかるわ。私のことなら大丈夫よ、恵梨沙。あの婚約は私が自分で望んだことなのよ」

 陶子は事の経緯をルームメイトに語った。彼女の婚約者も同性愛者で彼には若い恋人がいる。老舗の御曹司であるがゆえに身を固めなければならなかった彼は、同類である陶子と契約的な結婚の約束を取り交わした。松若は陶子が妻として社会的な役目を果たしさえすれば、あとは彼女の自由にさせてくれる。人目を忍びさえすれば、彼女が本来の恋人と会っても一向に構わないというわけだ。もちろん経済的にも陶子を支えてくれる。

 かつて恵梨沙に好みの男性のタイプをたずねられた時、陶子は「淡白な性質で同じ嗜好を持つ人がいい」と答えた。それはすなわち、女性に対して淡白で自分と同じ性的嗜好を持った男性がいいという意味であった。
< 89 / 145 >

この作品をシェア

pagetop