花嫁指南学校
ちょうどその頃、寮の一画にあるメイクルームでは、藤本清子が沓掛陶子のメイクを担当していた。今夜もまた夜間外出届を出して、松若と一緒に水川がやっているバンドのライブを見にいく予定だ。
藤本は洗顔を終えたばかりの陶子の顔にホットタオルを当ててから、冷たいタオルで一気に肌を冷やす。そうすることで毛穴がキュッと引き締まる。それから特製のバラ水の化粧水で三分ほどローションパックをする。肌が水分で十分潤っていると、美容液を付けた時にそれが真皮にまで到達するのだ。水分を含んだ肌に蓋をするために保湿クリームを塗って、基礎的な手入れは終了する。
次にメイクアップに取り掛かる。藤本は陶子の顔中にベースを塗りたくる。指の腹で肌を撫で回されるのはとても気持ちがいい。一点の曇りも無い陶子の肌にコンシーラーは必要ない。ベースの上には薄くファンデーションを塗り、仕上げにフィニッシングパウダーをはたく。藤本が推奨する超微粒子のパウダーは肌に自然な質感を与える。
それからベースに色を載せていく。チークにはピンク系の粉を引く。眉には髪の毛と同じ色のアイブローを引く。眉頭の位置を上手く調整することが眉メイクの決め手だ。眉の形と色の加減はメイクの中で最も重要な要素だといっても過言ではない。アイシャドーは洋服の色に合わせてシャーベットブルーにした。夜のお出掛けならこういう色を使ってもいいだろう。アイラインは上だけ引く。ラインを上下に黒々と引いてしまうと清楚な学生らしさを損なってしまう。ただしマスカラは目の周りを華やかにするから、上下に付けてもいいかもしれない。目にポイントを置くなら口紅の色は控えめにするべきだ。上に重ねるリップグロスはあくまでも唇の中央に少しだけ載せる。全体に広げてしまうと唇が異様に光って見えてしまうからだ。