物語と人形
それから、数日が経った。
屋敷に誰かが訪ねてきた。
「此処に、エリーザという女が居るな?」
低い声音に漆黒の翼、そして深紅の瞳をした男が言う。
「礼儀を知らぬ悪魔だ。」
一目で悪魔族と解ったハルデンは軽蔑した。
悪魔族という理由よりも、礼儀を知らない態度が気に食わない様子だ。
「そやつなら、人形と共に水を汲みに行った。直に帰る。……素性が知れた物であるならば、持て成すが、どうするかは委ねよう。」
「俺は、イザヴェル・イブウェール・アクストラ。悪魔族だ。」
仏頂面でイザヴェルは答えた。
「では。」
そう言うと、中へ案内した。
「貴殿は何故、あの女の居場所を知った?」
「エリーザの家政婦が“森に行ったまま戻らない”と言っていた。そして、エリーザの血の匂いを見つけた。そこで、その周辺を探したまでだ。」
「匂い、か。鼻が利くのだな。」
ハルデンは感心した。
「……あくまで予測だが、貴殿があやつの“恋人”とやらか?」
「知っているのか。そうだ。」
「恋人が悪魔族、とだけな。」
その言葉にイザヴェルは目を細めた。
「エリーザは何故、此処に居る。」
「負傷し、羽が折れていたところを手当てしたところ、突然、働きたいと申し出られた。」
「何?」
イザヴェルは不思議そうな表情になった。
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