物語と人形
ハルデン・クシュトークはキセルを蒸せる。
髭面の厳粛な表情を崩すことなく、隣の少女を見る。
「“人形”……どうかね?」
人形と呼ばれた少女は頷いて去った。
“どうかね?”とは、夕飯が出来たかを問うたらしい。

「うむ。」
しばらくして、ハルデンは戻ってきた少女を見て頷き、立ち上がった。
少女は食事をするテーブルに案内すると、料理を運んでくると、一礼して去る。
小柄な身体とは不釣り合いなくらいに大きな桶を台所から持って、玄関を出て、裏庭の井戸へ向かった。
特に辛そうな様子もなく、日課のように水を汲んで戻ってくる。
その頃には食事が終えたようで、片付けを始めた。
ハルデンはキセルを蒸し、新聞を眺める。

この家には少女とハルデンしかいない。
息子は出稼ぎに行っているし、妻は他界している。

少女は人身売買されているところを買い取った召使いだ。
名前は知らない。
無口で何も感じないような暗い髪色と色素が薄い灰色の瞳を持っていた。
売り場の者が“人形”と呼んでいた為、ハルデンもそう呼んでいる。
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