物語と人形

「……それも、そうか。」
やや呆然として、呟いた。
「人形、と呼べばいい？」
少女を見ると、少女は頷いた。
「名は、ないのか？」
その問いに少女は目を伏せて袖を捲った。
「！」
痛々しい程に赤く刻まれた番号。
“２１８８９６”
奴隷の管理番号なのだと解った。
「おまえ……」
「……」
少女は絶句するエリーザを見た。
そして、言葉の続きを聞こうという目をする。
「此処には、おまえとハルデンさんだけか？」
その言葉に少女は頷く。
「……」
エリーザは考えた末にハッと思いついた。
「私、決めた！」
そう言うと、ハルデンの所へ走った。
「？」
少女は首を傾げている。

“ばん！！”
激しい音を発て、扉を開けた。
ハルデンは寝床から起き上がると、怪訝そうな顔をする。
「私も、此処で働く！」
「は？」
ハルデンは眉間に皺を寄せる。
「此処にはおまえとあの子。幼気な子一人だけに全て押し付けるなどという愚行、許しておけない！かといって、老人に苦労はかけられない。よって、私が働く！！」
「……構わぬが、家は良いのか？」
その問いにエリーザは頷いた。
「…………恋人が悪魔族故に、嫌煙されている。迫害されることはなく、離れで殆ど自給自足で生活しているが……居なくなったところで、むしろ清々するくらいだろう。」
吐くように言う。
「わしに面倒が掛からなければ好きにするといい。」
ハルデンはそう言うと、追い払う仕草をした。
「ふふっ、りょーかい。」
上手くいったと言うようにエリーザは笑った。
「……面倒だ。」
ハルデンは忌々しそうに言うと去っていくエリーザを見た。