物語と人形
エリーザは不思議そうに少女を見た。
「どうした?」
少女は俯くと、首を振った。
屋敷はすぐそこに見えていた。
少女は早く行こうと急かすように歩んだ。
僅かに見えた顔は蒼白で、肩も震えていた。
「おい!」
思わず、少女の肩を掴んで声をかけた。
びくりと肩が震え、少女は止まる。
「具合でも、悪い?」
その問いに、ふるふると首を振って答えた。
「私が、何かしてしまった?」
「あなたは、いいひと……でも、とても……」
その先を言うことは出来なかった。
「あたた、かい……こわい、くらいに……」
途切れ途切れに言葉を紡ぐ。
「そうか。」
それだけで十分解った。
優しさに触れたことがなかったんだ。
だから、怖がっている。
ハルデンも確かに非道ではないが、こういった優しさはないだろう。
エリーゼは桶を傍らに置くと、少女を抱きしめた。
速い鼓動が腕を通して感じ取れる。
身体が震え、怯えが伝わる。
それと同時に、少女が初めて自分に感情を向けようとしているのも解った。
「大丈夫。今は、未だ、慣れていないだけ。」
そっと、頭を撫でて言い聞かせる。
「……エリーザ・アルベルタさま、は……ふしぎなひと。」
「エリーザでいい。ふふふっ、そう。」
「でも、おこらないから……すき。エリーザ、すき。」
「うん。ありがと。」
一生懸命に言葉を伝えようとしている表情が変わらない顔を見て、エリーザは答えた。
「いかなきゃ。」
「あぁ、そうだね。」
エリーザはそう言うと、桶を持った。
< 8 / 13 >

この作品をシェア

pagetop