不実な夜の向こう側
「なっ、何を……っ」

「君は、自分が女だということを自覚してないのか? こんな時間に、のこのこひとり暮らしの男の部屋に来て、」



するりと、彼が左手の拘束を解いて、みちるの髪に触れた。

普段オフィスでは、きっちりと結い上げられたその栗色の髪。仕事終わりだからとおろされたそれは今、フローリングに艶やかに広がっている。

彼女の髪を弄びながら、彼が妖艷に微笑んだ。



「──本当は、この展開を望んでいたりして?」

「……ッ、」



ぎゅ、と、まだ抑えつけられたままの右手のこぶしを、きつく握りしめる。

解放されたはずの左手は、だけども抵抗することなく、床から動かないままで。


……髪を撫でられている感触が、気持ちいいだなんて。

そんなこと、絶対に、思わない。
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