不実な夜の向こう側
そうこうしているうちに、再び彼によって、両手が拘束された。

相変わらずみちるからの鋭い視線を受けながら、だけどもまったく堪えていない様子で、沖田が小首をかしげる。



「うん、やっぱり鈴鹿の、その目はそそるね。……キスしたいな」

「………」



軽すぎるその言葉に、苛々と、彼女が視線を逸らした。

心外だとばかりに、彼がぐっと顔を近付ける。



「俺のキスは、すごいよ。きっと鈴鹿も、気に入ると思うけど」

「ッ、そういうのは! 部下の私ではなく、数多くいる彼女たちに、して差し上げてください」

「彼女たち、って……“あれ”は、彼女でもなんでもないさ」



そのせりふに、訝りながら彼へと視線を向ける。

沖田は冷ややかな笑みを浮かべ、言葉を続けた。



「あんなのは、ただの“身代わり”だ。一緒にいたって何の情もわかない」

「身代わり、って……」

「君の代わりだよ、鈴鹿」



降ってきた、その声に。

今度こそ彼女は、驚きで言葉を失った。
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