不実な夜の向こう側
「いつだって、俺は君にだけは誠実だった。……酒の力を借りなければ、こんなこともできないくらいには」

「しゅ、にん、」

「……名前を呼んで、みちる。俺は君の口だけから、ずっと、欲しかった」



──例えば、別の部署の女の子。

──例えば、取引先の美人な担当者。

──例えば、会社にまで押しかけてきた彼の元カノ。


本当は、ずっと羨ましかった。

簡単に彼の名前を口にできるその無邪気さが、欲しかった。

……沖田主任。

しゅにん、主任主任主任。

いつだって、心の中では、切なく呼んでいた。



「……ふみ、ひと」



ぽつり、小さく呟く。

瞠目している彼を見上げながら、また、震える唇を開いた。



「ふみひと。……史人」

「……ッ、」



するり。また、片手の拘束が解けて、みちるの頬を大きな手が包む。

だけど、彼女は逃げ出さない。もう、向き合おうと、決めたから。


頬を赤く染める彼女を見下ろしながら、ふわり、彼が微笑んだ。



「……俺の勝ちだ、みちる。大人しく、目を瞑りなさい」



降ってくる唇に、自分の方から、彼の首へ腕をまわして。

──本当はずっと、この男が欲しかったんだと。

ようやく自分の願いを認めてあげながら、快楽に、堕ちていった。










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