不実な夜の向こう側
「今回の企画、取引先とちょいちょい軋轢あったからなぁ。主任もストレス溜まってたのかね」

「……そんなにストレス溜めてるようにも、見えなかったけど」



小さくつぶやいたみちるの視線の先で、また沖田が、ウイスキーを一気飲みした。

それを見て囃したてるまわりの同僚たちに、彼女は軽くため息を吐く。


彼女たちの上司である沖田 史人という男は、みちるよりも3つ年上の29歳という若さで、すでに主任に成り上がったやり手だ。

彼に付いて取引先へ訪問することが多々あるが、その話術といったら鮮やかなもの。

甘いマスクに、人好きのする微笑み。

休日はジムにも通っているらしく、スーツに隠されたその身体は、無駄な脂肪がなく引き締まっていて。

そして低くて頭に直接響くような、魅力的な声。

……女癖さえ悪くなければ完璧なのに、と、我が上司ながらいつも思う。
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