不実な夜の向こう側
「……主任、大丈夫ですか?」



夜も更けて、宴もたけなわ、と同僚のひとりが音頭をとった後。

店を出ながら、隣りでぐったりと部下に抱えられている沖田に、みちるは声を掛けた。

意識はちゃんとあるようだが、沖田はさっきからまったく、彼女の問いかけに反応してくれない。



「先輩たち、飲ませすぎですよ」

「や、だってめずらしく主任、すすめるままに酒飲むからさぁ……でろんでろんになってるとこ見たことなかったから、ちょっと興味あって」

「……はぁ……」



高津の言葉に、テヘペロとでも言わんばかりのお茶目顔を披露した先輩のせりふを聞いて、思わずため息。

とりあえず、と、彼女は顔をあげて、ぐるりとまわりの同僚たちを見渡した。



「さすがにこの状態の主任を、ひとりで帰すわけにはいかないでしょう。途中で行き倒れて風邪でもひかれたら、たいへん困ります。私たちが」

「鈴鹿も何気にひどいよな……」

「あ、ごめん俺無理。家で妊娠中のラブラブ奥さんが待ってるから」

「俺も無理だなー」

「うち、主任と家まったく逆方向ですし」

「悪いなー、俺もこの後野暮用が……」

「あ、鈴鹿ちゃん、主任と家の方向一緒じゃん!」

「………」
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