不実な夜の向こう側
「……この状況で余所事なんて、いい度胸だな」



冷たくて熱い、彼の言葉にハッとして。彼女は視線を、掴まれた自分の手から目の前の男に戻した。

不機嫌そうな、だけども機嫌の良さそうな。そんななんとも言えない表情で、沖田は自分のことを見下ろしている。

みちるはきゅっと唇を結んで、視線の先の男を睨みつけた。



「主任こそ、いい加減にしたらどうですか。早く、そこを離れてください」

「それはできないな。この手を放したら、君はここから逃げるんだろ?」

「……当然のことだと思いますが」

「なら、放さない。俺はこのままここで、君を抱きたいから」



あっさり、言われたそのせりふに。

みちるは思わず、息を飲んだ。



「……主任、今なら、酔っ払いの戯言だと思って忘れますから。だから、手を放──」

「本当に君は、強情だな。俺は君を、抱きたいと言ったんだよ」

「……ッ、」



自分に向けられる熱い眼差しと言葉に、瞠目する。

ここにきて少しだけ、抑えつけられた手が小さく震えた。
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