天才博士の恋愛理論
第1話 噂の若き天才博士
『この分子の配合列ですが―――…』
マイクを通して聞こえてくる少し低いけど、やんわりとした話し方をする声。
それは、外見の雰囲気からもわかるほどに優しい響きを漂わせていた。
少しふわりとした色素の薄い茶色い髪。
無造作にセットされた髪に、フレームの細い眼鏡。
眼鏡の奥に潜む瞳は、ちょっぴり大きめのくっきり二重。
ほんの少し童顔に見えなくもないその姿だけど、それを補うようにスッと通った鼻筋や、男らしい薄い唇。
そして、何より、全体的に調和がとれたそれぞれのパーツが彼の美しさを醸し出していた。
私は、後方の席からルーズリーフに説明を聞き取り書きながら、そんな彼の様子を観察する。
普通なら、この階段式の講義室の場合、前列にいるのは一握りの熱心な生徒のみ。
大体の学生は中央付近から後方の席を取って授業を受ける。
なのに、この教授の講義だけは異例。
前列の席は多くの女子学生で埋め尽くされていた。
明らかに、教授の近くにいたいがための行動。
まあ、その気持ちはわからなくもないけどね。
講師ならいざ知らず、大学の教授なんてものは、ほとんど年を取ったおじさんたちがほとんど。
下手したら、おじいちゃん世代かもという人も多い。
そんな中、若い教授は珍しい。
おまけに、その人がイケメンともなれば、仕方のないこと。
それに、この教授はただ若くてイケメンというだけではないのだから。
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