チャット恋愛注意報!!(旧)
「……どうせ私は、ネットとリアルじゃ全然性格が違う変な子ですよーだ」
頬を膨らませながら言い、階段を下りる。
その後ろから、YUKIも階段を下りてきた。
「サクラは、ネットでもリアルでも変わらないと思う」
「……そんなことないよ。 だって私すっごく人見知りするし、相手の顔を見て話すのとか苦手だし……会話とかも、上手に出来ないもん」
「俺たちの前だと、そんな感じはしないけどね」
「それは、みんなが友達だからだよ。 大切な友達で、いつも一緒にチャットしてた人たちだから……」
そう言って足を止めた私の頭を、YUKIはポンポンと叩いた。
「でもここはチャットじゃなくてリアルだよ。
サクラは……桜子は、ちゃんと俺たちを見て話してるだろ?
だからさ、俺たち以外が相手だとしても、きっと大丈夫」
「……でも……」
「最初から上手く出来る人間なんて居ないよ。 失敗したっていい。 その次を頑張ればいいんだ。
過去は変わらないけれど、未来は変えることが出来る。 だから、前を見るべきだと思う」
……前を、見る……。
「ちっぽけな世界に閉じこもったまま一生を終えるか、広い世界に飛び出して生きていくか、それはサクラ次第だよ」
そう言ったYUKIは、一人で台所へと行ってしまった。
「……ちっぽけな、世界……」
幽霊のようにぼんやりと存在してる私は、ちっぽけな世界のちっぽけな住人。
そしてネットの中の私は、広い世界を自由に飛び回ることが出来ている。
私は……本当はネットだけじゃなくて、リアルでも広い世界に居たい。
ユージやYUKI、フジヤマと話してる時のように、笑い合っていたい。
……だけど、簡単に行くものじゃないよ。
失敗したっていい。とYUKIは言うけれど、私は失敗に失敗を重ね、更に失敗を繰り返してきた人間だ。
だからこそ、他人とのやり取りが怖い。
そんな私が広い世界を飛び回るなんて……そんなの、夢のまた夢だと思う。
「……私には、頑張れないよ」
誰も居ない廊下で呟き、ため息とともに、私はトイレへと歩き出した。