チャット恋愛注意報!!(旧)
「ユキ姉は個室だから、チャットの話とか色々と自由に出来ると思う。 でも、あんまりアホなことは言わないで」
「おいコラ、『アホなこと』って言いながらなんで俺を見るんだ」
「アホなことを言うのはフジヤマくらいだろう?」
「大丈夫、俺はアホじゃなくて馬鹿だから」
「同じようなものじゃん」
ふふっと笑うYUKIに、フジヤマは小さく笑みを返した。
……ゆっくりと歩き出すYUKIに合わせ、私たちも進んでいく。
フジヤマはやっぱり最後尾。
私が振り返った時、彼は微笑みを浮かべてさっきよりも深く深く麦わら帽子をかぶった。
1階受付で面会の手続きをし、エレベーターに乗って5階の西病棟へ。
「あら秀一くん、いらっしゃい。 今日はお友達も一緒?」
「えぇ、みんなユキ姉の友達です」
「そうなの。 こんにちはー」
ナースステーションに居た看護師さんたちに頭を下げるYUKIに合わせ、私たちも頭を下げる。
しょっちゅう病院に来てるらしいYUKIは、看護師さんたちと仲がいい。
ステーションに居た3人の若い看護師さんが、YUKIを囲んでニコニコ笑っている。
「今、ユキ姉に会えます?」
「さっき検査が終わったから大丈夫よー。 あ、でも疲れて眠っちゃったかも」
「あぁ……その時は、起こさないようにこっそり帰ります」
看護師さんたちにニコッと笑いかけ、YUKIは歩き出す。
……私たちが去ったあとのナースステーションでは、にわかに黄色い声が。
「随分と親しげだなー?」
ニヤッと笑うフジヤマに、YUKIは微笑んだ。
「みんないい人だよ。 ジュース奢ってくれたり、『何かあったらすぐ知らせるから』って電話番号教えてくれたり」
「それで、本命はどの子?」
「え、何? どういうこと?」
フジヤマの言葉に、YUKIは足を止めて首を傾げた。
「いや、『何』って……まさかお前、『いい人だなー』って見てるだけ? 他になんも思わねぇの?」
「他に何かある?」
「……うっわ勿体ない。 うわー、無自覚のモテ男だ」
じっとりとした眼差しのフジヤマに、YUKIは『何言ってるんだ?』と、やっぱり首を傾げる。
……YUKIってば、看護師さんたちにすっごくモテてるのに……。
フジヤマが言うように、まさに無自覚。
……でも、お姉さんが入院してる最中だから、そういうのは目に入らないのかもしれない。
フジヤマは『勿体ない』とか『羨ましい』とか『俺に紹介しろ』とかブツブツ言ってるけど、YUKIは相変わらずの表情だった。
「まぁまぁフジヤマ、落ち着いて。 YUKI、病室はどこ?」
「あぁうん、こっち」
フジヤマを宥めたユージが、YUKIを視線で促す。
再び歩き出したYUKIに続き、私たちも歩き進め……1番端の病室の前で止まった。
「ここだよ。 中にユキ姉が居る」