チャット恋愛注意報!!(旧)
「階段下りて1階のロビー見たらさぁ、誰かイスに座ってんの。
で、先輩警備員に『人居るよー』ってトランシーバーで連絡したんだけどぉ、もう1回そっち見たら誰も居ないのな。
連絡する時にほんの一瞬目を離しただけ。 その間に消えたんだぜ? アレは絶対幽霊だね、うん」
……うわぁ!! リアルで怖い話じゃないかっ!!
なんでそんな、平気な顔して笑ってんのよっ……!!
「こ、怖くなかったの……!?」
「先輩は怖がってたなぁ。 俺は全然平気。 むしろ幽霊と触れ合いたい。 色情霊にすべてを捧げたい」
「……いやいやいやっ、なに馬鹿なことを言ってるんですかっ!!」
「俺はいつでもマジだぜい。 でもやっぱり生身の女がいいなぁ。
サクラ、生身の女なんだから俺を楽しませろ」
「ちょ、なんでそうなるのっ……」
「周りのカップルを見ろ、このクソ暑いのにベタベタくっついてるぜ? 俺らもくっつこうよ、なぁ?」
横になった状態のフジヤマが、私の手を引っ張る。
その拍子に、私も砂浜で横になった状態に……。
うぅ、服の中に砂が……。
「サクラ。 お前の本名は?」
「え?」
「サクラってのは、本名じゃねぇんだろ?」
「あ……うん……」
みんなと一緒に居た時、フジヤマは私とユージに『本名?』って聞いてきた。
ユージは頷いたけど、私は『まぁそんなところ』と答えた。
だからフジヤマは、私に名前を聞いてきたのだ。
「で、名前は?」
「さ、桜子……です」
「あぁやっぱり、そうだと思ってた。『そんなところ』って言ってたもんな」
「……うん」
仰向けでフジヤマを見つめる私。
フジヤマは横向きで、私の髪を優しく撫でている。
なんか、ちょっと……恋人っぽい……?
「あの……フジヤマの、本名は……?」
とても近くに居るフジヤマに、心臓がドキドキと鳴る。
それを隠すように、フジヤマを見つめて名前を聞いた。
「沢口 晋也(サワグチ シンヤ)」
「沢口……本当に、フジヤマとは全然関係ないんだね……」
「おう」
「沢口さん……晋也さん、か……」
ぼんやりと名前を繰り返す私に、フジヤマはクスッと笑った。
「実はそれも偽名な」
「……え」
「俺の名前はレオナルドとかその辺だ。どうだ、カッコイイだろう?」
……いやいや、『その辺』って。
適当に思い浮かべて言っただけ、って感じだ。
ほんとにもう……どこまで言っても、フジヤマはアホだ。