チャット恋愛注意報!!(旧)
「フジヤマってほんっと変な人だよね。 どうやったらそこまでアホで居られるの?」
「うわ、冷たいなぁ。 『どうやったら』って言われても、これが俺だからな。 あぁでも……」
「……でも?」
そう言いかけたフジヤマは、仰向けになって微笑んだ。
「昔、『アンタはずっとそうやって笑ってろ』って言われたから、ずーっとこうやって笑ってるのかもしれねぇな」
「言われた、って……誰に?」
「ユキって女。 ……だから俺、あのクソメガネのことを好きになったんだな。
いや、クソメガネじゃなくて、ローマ字表記のYUKIを好きに、だな」
ボソボソと言うフジヤマに、私は首を傾げる。
言葉の意味が、よくわからないんだけど……。
「昔な、サクラと出会う前に……俺はユキって女としょっちゅうチャットしてたんだ。
『高校生ルーム8』で、俺がまだリアルで高校生だった時だ。 その時から俺はずっとフジヤマ」
体を起こしたフジヤマは、指で砂に文字を書いていく。
YUKI と ユキ
私が知ってるのはYUKIで、フジヤマが知ってるのはユキ。
「クソメガネが演じてたYUKIと、俺がずっと話してたユキはなんとなく似てる。
言葉の感じとか、笑いのツボとか。 だから俺、『懐かしいなぁ』って思って、勝手に二人を重ねてたんだろうな」
「……ユキさんに、恋してたの……?」
「してたね。 お互いの顔も本名もわかんねーけど、恋してたのは間違いない」
……そっか。
だからフジヤマは、『YUKI』に対して恋愛感情を……。
「ユキと最後にチャットで喋ったのは、17の時……もう6年も前になるんだな」
「……あのチャットサイトって、そんなに前からあるんだね」
「10年くらい前からあるんじゃねーの? 利用する人間は変わっていくけど、チャット自体が消えることはねぇよ、多分」
そう言ったあとのフジヤマは、少し寂しそうだった。
『懐かしいなぁ』って笑って、『会いたいなぁ』って空を見上げて。
ユキさんに、本当に恋をしていたんだ。
「フジヤマは、ユキさんに会いたくてチャットを続けてるんだね」
私の放ったその言葉に、フジヤマは微笑んだ。
肯定とも否定ともわからない笑顔。
それは、車の中でYUKIが見せた微笑みと、どことなく似ていた。