チャット恋愛注意報!!(旧)
「サクラ。 何気なく歩いて来ちゃったけど、このあとどうする?」
「あ、そうだよね、どうしよう……」
「ちょうどファミレスあるし、入ってお茶する? 外だと暑いし」
「いいかもっ」
YUKIはずーっと平気そうな顔だけど、実は私、かなり暑くて限界間近だった……。
中に入ると、今度は冷房が効き過ぎてて寒いけど……でも外にずっと居るよりはマシだ。
店の中は空いていて、客はほとんど居ない。
案内された席のそばには誰も居なくて、話をするには絶好の場所だ。
ドリンクバーとケーキを頼み、それぞれの飲み物を準備したあとに、YUKIを見る。
「YUKIは6年前からずっと『YUKI』って名前なの?」
「あぁ……いや、最初は『シュウ』って名乗ってたよ」
「その時は、ちゃんと男?」
「まぁ、当時はガキだったから。 ネカマとかそういうのもあんまりわかんなかったし」
頬杖をつき、窓の外を見るYUKI。
懐かしそうに微笑むYUKIの横顔を、私も微笑みながら見つめる。
「ガキだった俺は、フジヤマとユキ姉の会話を目をキラキラさせながら見てたよ。
何気ない話をしてるだけなんだけど、全部大人っぽく思えて、凄くカッコイイって感じた。
俺がイメージしてたフジヤマは、イケメン男子な。 リアルじゃ変なオッサンだったけど」
「ふふっ……チャットじゃモテモテだもんねぇ」
「だな」
フジヤマのことを思い出しながら、私たちは笑う。
その後、YUKIはふっと息を吐き出し、僅かに視線を落とした。
「……ユキ姉がチャットをやめたのは、7月31日。 俺の誕生日だったからよく覚えてるよ。
その日はみんな『あれ、来ないね?』って言うだけだったけど、1日、また1日と経つうちに『なにかあった?』ってザワザワし始めて。
でも結局さ、みんなチャットだけの付き合いなんだよね。 1番仲のよかったフジヤマですら、連絡先を知らない。
そういう世界だから……心では気にしていたものの、みんなユキ姉のことは話さなくなっていった」
「……フジヤマも……?」
「まぁ、あの人は笑顔を絶やさない人だったからね。
ユキ姉が居なくても、誰かとは話してる。 気にはしてるんだろうけど……それを表に出すような人ではなかったよ」
「……そっか」
そこまで言った時に、注文していたケーキが運ばれてくる。
だから私もYUKIも言葉を止め、店員さんから静かにケーキを受け取った。
その後、店員さんが去っていったあとも、私たちは無言。
何を話せばいいか、どう声をかければいいかがわからなかった。
「……『YUKI』って名乗るようになったのは、最近だよ」
ふと、YUKIが言う。