チャット恋愛注意報!!(旧)
………
……
…
「YUKI、気をつけて帰ってね?」
「それはこっちのセリフ」
そんな言葉で笑い合い、駅の時計を見つめる。
私が乗る電車が到着するまで、あと10分ほど。 YUKIが乗る新幹線は、20分後の出発だ。
「じゃあ、また」
ひらひらと手を振るYUKIと同じように手を振り、1歩離れる。
「またチャットで話そうね」
そう言った私に、YUKIはふふっと笑って頷いた。
「俺はチャット以上の関係になりたいって思ってるけどね」
「へ?」
「んや、なんでもないよ。 それよりも……ユキ姉のこと、全部話せなくてごめんな」
……全部?
「もしかして、まだ何か話してないことがあるの?」
「秘密」
「うー……絶対何かある……」
……でもYUKIは、肩を竦めて笑うだけ。
『暗黙のルール的な何か』だ……。
「……話したくなったら、言ってね?」
「うん」
「……じゃあ、またね」
「また今度」
ひらひらと手を振るYUKIに、私も手を振り返す。
私が1歩離れるのとほとんど同時に、YUKIも1歩離れ……ふっと笑ったあと、後ろ手に手を振って歩き出した。
「あの……絶対、気をつけて帰ってね?」
「だからそれはこっちのセリフ。 サクラも気をつけて帰りなよ?」
「うんっ」
振り返ったYUKIが、私を見て笑う。
その笑顔に、私も笑みを返した。
……YUKIはまだ、私の知らないことを抱えている。と、そんな気がする。
ううん。 実際、何かを抱えているんだろう。
だけど彼は言わない。
だから私も聞かない。
……いつか彼が話してくれるのを、私は待つだけだった。
帰りの電車の中は、朝よりも混んでいた。
座る場所がなく、私はドアに寄りかかって景色を眺める。
YUKIは、ユキさんじゃない。
そして彼は、6年前を知る数少ない人物。
ーー『ユキ姉のこと、全部話せなくてごめんな』
その言葉が何を意味してるのかはわからない。
わからないままに、私は一人、電車に揺られ続けた。