チャット恋愛注意報!!(旧)
そんなことないよ。 フジヤマのせいなんかじゃない。
……と、言いたかった。
だけど、私は何も言えなかった。
私は当時のことを知らないし、ユキさんがチャットを辞めた理由も知らない。
もしかしたら本当にそれがきっかけだったかもしれないし、別の理由があったとしても……私にはわからなかった。
だから私は、何も言葉が出せなかった。
『俺がずっとチャットを辞めなかったのは、ユキに謝りたかったから。
『ごめんな』って言って、それから、『本当はユキに恋してた』って言うため。
会えない確率の方が高いってわかってたけどさ、でも、俺が辞めるわけにはいかないだろ?
……俺が辞めちまったら、ユキとはもう、本当に会えなくなっちまうんだから』
……いつも明るくて楽しいフジヤマの声が、今は震えている。
涙を一生懸命に、我慢してるかのような……そんな声だった。
『……だけど、そろそろ潮時かなって思う。 さすがに6年っつーのは、厳しいもんな』
「フジヤマ……」
『チャット辞める前にサクラとユージとYUKIに会えてよかったよ。 なんかさ、昔に戻ったみたいで楽しかった。
それって多分……クソメガネがユキに似てたからかもな。 アイツに聞いたよ、アイツは6年前のこと知ってるんだってな。
だからこそアイツはユキを演じてくれてたし、俺に夢を見させてくれた。
ずっと会いたいって思ってたユキと再び会えたような気がして、嬉しかった』
とても優しい声で、フジヤマはふふっと笑う声を漏らした。
『ごめんな、サクラ。 それと、ありがと』
「……え……?」
『連絡くれてありがと。 サクラともう一度話せてよかった。 ちゃんと謝ることが出来て、よかった』
その言葉を聞いた時、私はニシシッと笑うフジヤマの顔を思い出していた。
いつもと変わらずに笑ってる、アホなフジヤマ。
だけどその距離は遠くて、どんどんと、離れていって……。
「フジヤマっ……」
『じゃな、サクラ』
「待って……!!」
『そのうちまた連絡する。 その時はフジヤマじゃなくて、無敵の沢口さんな』
電話の向こうで笑っているだろうフジヤマは、もう一度『じゃあな』と言ったあとに電話を切った。