鏡の中の彼女
消えた時
冬休みが始まって、俺は毎日部活に打ち込んだ。


サッカーは楽しかった。


それは唯一以前の俺と変わらずにいれる居場所だった。





1日1日、確実に時間は経っていくけど、俺の記憶は戻らないままだった。


ただ、新しい記憶に変わっていくだけ。


毎晩寝る前に頑張って何かを思い出そうとするけれど、何も戻ってこない。


もしかしたら俺の昔の思い出は帰ってこないのかもしれない。


そう思ったらどうしようもなく暗い気持ちになった。


だから、もしかしたら俺はサッカーというものに逃げていたのかもしれなかった。


今はそれでも良かった。




「骨はもう、大丈夫ですよ」


病院で、医者にそう告げられる。


元々、ぱっきり折れていたわけではなかったから、時間がかかると言われていたけれど案外早く治った。
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