鏡の中の彼女
コートはとても厚手のものなのに。


不釣合いな格好。


紺の女の子っぽいコートと、白に近い短い髪の毛。


まるで彼女は何かに抗っているようだった。


何か、俺には見えないものに。


ちょうどその時、俺たちの降りる1個前の駅で、詩織が寄りかかっていた方のドアが開いた。


わっ、と小さく声を上げながら彼女が仰け反る。


倒れていきそうになる詩織の手を掴んで、俺の方に引き寄せる。


「...ありがと」


「うん」


なんだか恥ずかしくなって、つい無愛想に返してしまった。


言い直そうと詩織の方を向くと、彼女はうつむいて顔を上げなかった。


だから、俺も何も言わないでおいた。
< 55 / 61 >

この作品をシェア

pagetop