マッタリ=1ダース【1p集】

第12話、雨音を聞きながら

 ぽつ、ぽつ、ぽつ。

 やっぱり降り出した。最近の天気予報はかなり当たる。

 持っていた小豆色の傘を広げ、体がハミ出さないように気を付ける。

 パラ、パラ、パラ。

 雨音が変わる。

 何だか楽しい。

 由利は夫の秀夫を、駅まで向かいに行く途中である。
 クルクル傘を回して、スキップ踏んで。

 ルン、ルン、ルン。

 鼻唄も口ずさむ。

 ちゃぷ、ちゃぷ、ちゃぷ。

 水溜まりも、お気に入りの向日葵のサンダルで、へっちゃら。

 らん、らん、らん。

 体も踊る、心も躍る。

 あの人が待っている。
 いつもの駅で。

 いち、にの、さん。

 大きな水溜まりも、ひとっ飛び。

 ずんずん、ずんずん、どこまでも。
 ずんずん、ずんずん、歩いて行く。

 あの人のもとへ。
 あの人の笑顔に。

 この紺色の傘を、貴方に届けるため。
 この雨の中を、二人で帰るために。

 フン、フン、フン。
 いっちに、いっちに。

 行進だ。

 みぎ、ひだり。
 みぎ、ひだり。

 見えてきた。
 あの人のいる駅が、見えてきた。

 みぎ、ひだり。
 みぎ、ひだり。

 らん、らん、らん。

 全体、止まれ。

 いっち、に。

 到着。


「早かったね」

 秀夫が優しく微笑む。

「だって、雨だもん。じっとしてられないよ」

 由利は持って来た傘を手渡す。

「ありがとう」

 バッサア。
 秀夫は勢いよく傘を広げた。
 大きな、大きな、紺色の傘だった。

「この傘も古くなったな」

 秀夫の傘は、ツギハギだらけだった。
 色々な当て布が模様になり、芸術的な雰囲気さえ、かもし出している。

「だってもう私たち、長いもん」

 由利は顔をくしゃくしゃにして、しみじみと言った。

「この傘一本で、一緒に帰ろうか?」

 秀夫は思い付いたように、白々しく言った。

「いいわよ」

 くすりと白髪の由利が笑うと、同じく白髪の秀夫も、にこやかに笑った。

 ちゃぷ、ちゃぷ、ちゃぷ。

 二人いっしょに傘の中。

 るん、るん、るん。

 雨音聞いて、帰る道。



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