マッタリ=1ダース【1p集】

第18話、最短距離

「何やってるの?」

 中学二年生になる鮎川奈美子は、学校の教室で休み時間、一人で何やらノートに書き込んでいるクラスメートの富田聖(さとし)の机を覗き込んだ。

 聖は頭が良い。幼馴染みの奈美子にはよく分かっていることだった。ただ、体が小さいため、いじめられやすかった。

「うわ、見ないでよ」

 バタバタと手で覆うものの、隠しきれない。

「なになに?」

 体のデカい美奈子が机に肘を付くと、聖の体が見えなくなった。
 美奈子の大きな胸が、机のお陰でその重力から解放される。

 眼鏡を掛けた聖は、フレームを摘んで目のやり場に困っていた。

「フローチャートだよ」

 隠し損ねた聖は、観念して美奈子に見せる。

 そこには、何やら分岐点を持った短い文章が図形で囲まれ、繋がっていた。

「アミダクジ? 違うわね」

「行程表だよ。上から順番に進めて行くんだ」

 知っている人間には当たり前のように知っている……そんなものらしい。

「ふーん。それで?」

「べっ、べ、別に……」

 美奈子がフローチャートに書かれている文字を指差す。

「何これ。告白のタイミングう……?」

「だっ、だから、僕は真面目に分析しているんだって」

 聖の顔が赤い。いや、熱い。まるでアルコールに過敏に反応したように、汗が浮き出している。

「そんなに恥ずかしがらなくてもいいじゃない。それで……結局、何を目指してるの?」

 よくぞ聞いてくれましたとばかりに、聖が汗を拭う。

「最短距離のラブストーリー、さ」

 少し聖の声が大きかったようだ。クラスメートの何人かが、こちらをチラチラと確認する。

「全然、最短距離じゃないじゃない」

 フローチャートを鉛筆でなぞりながら、美奈子が言った。

「それ、どういう意味?」

「さぁ……ね」

 休憩時間の終りを告げるチャイムが鳴る。ふわりと立ち上がると、美奈子は自分の席に戻る。

 その様子に目を奪われた聖が、机の上を片付けようとした時、ふと、何かに気付いた。

『バカ』

 いつの間にか、表の最後に、ゴリゴリと太線で落書きされている。

「……だよね」

 そう呟いた聖を、美奈子がニヤニヤと振り返っていた。
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