マッタリ=1ダース【1p集】
第28話、色えんぴつ
連休明け、仕事でくたくたになり、夕食として差し出された鯖の味噌煮をつまむ。そんな私に話を切り出したのは、妻の方だった。
「隆太郎くん、もうすぐ誕生日じゃない。それで何かプレゼントしようと思ったんだけど、全然浮かばなくって、思い付いたのが……」
隆太郎とは妻の妹の子供、つまり私からみれば義理の甥っ子に当たる。小学一年生だった。
「おもちゃ券ってどう?」
「おもちゃ券?」
「いいと思わない?」
ニヤニヤとこちらを見ている。
「そうかなあ」
私の反応が意外だったのか、すぐに顔をしかめる。
「ダメ?」
所詮は金券だ。おもちゃしか買えない。
「金券にするなら、まだお金で渡した方がいいよ」
「それはヤラシイでしょ」
「ぽち袋に入れたら問題ない」
金券に反対した訳だが、話が逸れている。
「小学一年生が喜ぶものを考えなよ。おもちゃだけじゃないと思う」
「わからないわ」
「学校に通いだしたんだ。例えば、文房具」
ああ、と大きく頷く。
「消耗品だって嬉しいんだ。鉛筆とか1ダースで渡したら喜ぶんじゃないかな。案外、箱に価値を見い出したりするかもよ」
ふぅん、と言いながら妻が目を細めたので、私は食べる方に集中した。
──翌日、妻と待ち合わせ、文房具屋に付き合った。そこで私の推す12色の色鉛筆と、妻の24色で激突してしまったのだ。
「色が多い方が喜ぶわよ」
妻が主張する。そして、私が反論。
「12と24を並べたらそうなるよ。でも、子供の事を考えてみなって。使いこなせるかな。最初から与えるっていうのはどうなんだろ?」
「色が多い方が絶対喜ぶって」
妻はこの一点張りだった。
「どちらも喜ぶのは間違いない。でもね、例えば同じ色ばかり使ってさ、歯抜けになったら悲しいだろ? 子供って大人の価値観とは違うよ。何気ないことで嬉しくなったり悲しくなったり。それに今、24色を与えれば、もう12色で喜べなくなってしまう。損するんだよ」
何を言っても無駄だったのだろう。12色の色鉛筆は贈るには安すぎるとか、しまいには、「私の甥っ子よ」とタンカを切られてしまう。
口をつぐんだ私は、一人で先に喫茶店へ向かう。アイス珈琲を頼み、小さく、こう、呟いてしまった。
「まあ、いいか」
「隆太郎くん、もうすぐ誕生日じゃない。それで何かプレゼントしようと思ったんだけど、全然浮かばなくって、思い付いたのが……」
隆太郎とは妻の妹の子供、つまり私からみれば義理の甥っ子に当たる。小学一年生だった。
「おもちゃ券ってどう?」
「おもちゃ券?」
「いいと思わない?」
ニヤニヤとこちらを見ている。
「そうかなあ」
私の反応が意外だったのか、すぐに顔をしかめる。
「ダメ?」
所詮は金券だ。おもちゃしか買えない。
「金券にするなら、まだお金で渡した方がいいよ」
「それはヤラシイでしょ」
「ぽち袋に入れたら問題ない」
金券に反対した訳だが、話が逸れている。
「小学一年生が喜ぶものを考えなよ。おもちゃだけじゃないと思う」
「わからないわ」
「学校に通いだしたんだ。例えば、文房具」
ああ、と大きく頷く。
「消耗品だって嬉しいんだ。鉛筆とか1ダースで渡したら喜ぶんじゃないかな。案外、箱に価値を見い出したりするかもよ」
ふぅん、と言いながら妻が目を細めたので、私は食べる方に集中した。
──翌日、妻と待ち合わせ、文房具屋に付き合った。そこで私の推す12色の色鉛筆と、妻の24色で激突してしまったのだ。
「色が多い方が喜ぶわよ」
妻が主張する。そして、私が反論。
「12と24を並べたらそうなるよ。でも、子供の事を考えてみなって。使いこなせるかな。最初から与えるっていうのはどうなんだろ?」
「色が多い方が絶対喜ぶって」
妻はこの一点張りだった。
「どちらも喜ぶのは間違いない。でもね、例えば同じ色ばかり使ってさ、歯抜けになったら悲しいだろ? 子供って大人の価値観とは違うよ。何気ないことで嬉しくなったり悲しくなったり。それに今、24色を与えれば、もう12色で喜べなくなってしまう。損するんだよ」
何を言っても無駄だったのだろう。12色の色鉛筆は贈るには安すぎるとか、しまいには、「私の甥っ子よ」とタンカを切られてしまう。
口をつぐんだ私は、一人で先に喫茶店へ向かう。アイス珈琲を頼み、小さく、こう、呟いてしまった。
「まあ、いいか」