マッタリ=1ダース【1p集】

第35話、初恋仕立て

 迫り来るバレンタインデー。カレンダーを見る度に、みぞおちの辺りが、更に窪んで行くように感じる。

 アタシは高校生。憧れの先輩にチョコを渡し、告白したいと思っている。……でも、勇気が出ない。

 チョコは鍋でコポコポと音を立てているが、アタシは焦りや迷いをなだめるのに、精一杯だった。

『頑張らなきゃ』

 自分を奮い起たせ、なんとか溶けたチョコを型に流し込む。大きなハートの形……これならありきたり。想いが届くかどうか、アタシの正念場だった。

 先輩は一年上だった。今年、三年生になり、卒業してしまう。高校生活におけるアタシとの接点は、まるでない。勉強の出来る普通の高校生で、特にスポーツが特別出来るとか、そういった目立ったものもない。

 では、いったい、どうして好きになったのか?

 その答えが高校生活に見当たる筈もなかった。なぜなら、好きになったのは、幼稚園の時。先輩は憶えてはいないと思う。年少組の頃、何かと優しく世話を焼いてくれたのが、先輩だった。
 親の都合により一年しかその幼稚園で過ごせなかったけど、アタシはその時のことを忘れはしなかった。
 後からお母さんが教えてくれたことだけど、先輩には妹がいて、よく世話をしていたそうだ。


 ──それから数日後、アタシは勇気を振り絞り、遂に先輩にチョコレートを渡した。放課後、校舎の裏の出来事だった。

「君のことは覚えているよ。でも……」

 その後、妹さんが事故で亡くなったとのこと。そしてアタシを見る度に、辛くなるのだそうだ。先輩が少なからず、アタシに重ね合わせていることは、間違いなかった。

「それ、チョコで作ったモノリスなんですよ」

「モノリス?」

「初恋仕立て、なの」

 そう言ったものの、チョコが墓標にも見えた。

「何かあったんだな、って、ずっと感じてた。だから……」

「ごめん。僕の方がいけなかったんだね」

 先輩の言葉の意味が、幾通りにもとれて、涙が出た。

「ありがとう。モノリスの意味……僕は知っているから」

 高校生活で初めて見る、先輩の笑顔だった。

「本当にありがとう」

 アタシは恐縮して、手に負えない顔になっていた。

 ──でも、これで良かったのだ。アタシは、そう思った。
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