マッタリ=1ダース【1p集】
第46話、オッサン園児
運悪くアミダくじに負けた結果、子供の通う幼稚園の図書委員に任命された私。その私が、渋々図書室に通っていた頃の話である。
ある日、本を一冊も持たずに、ひょっこりと普段見慣れない園児がやってきた。
ぽっちゃりした男の子だ。眼鏡は掛けてはいない。
「あのう」
上目使いであるが、眉毛が薄く、あどけなさゼロ。そして立派なオッサン口調だった。
「すみません。啓太くんは来ませんでしたか?」
「けいたくん? いやーまだ、来てないみたいだけど」
啓太は近所の活発な男の子だった。本を読むようなタイプではない。こんなところに来るんだろうか?
「本を──返しに来ませんでしたか?」
「本?」
「実はですね、啓太くんが、今日ここに来ることになってるんです」
「そうなの」
「僕は……啓太くんが返すのを待ってるんです。啓太くんが借りた本を、次に僕が借りようと思ってるんです」
今にも、恐縮です、などと言い出しそうな顔をしている。もはや、サラリーマン園児。
その園児が言うには、啓太くんとは同じクラスだが、話がついている訳ではないそうだ。それに特別、お友達という事でもなかった。
「ずっと気にしていた本なんです」
「へえー、そうなんだ」
「仕方がありません。それでは、代わりに、何かユーモアのある本はありませんか?」
「ゆ、ゆーもあ!?」
園児から、ユーモアという言葉が飛び出した。私は思わず情けない声をあげてしまった。
辛く長かった図書委員も、その日が最終日だった。
ありがとうございました、と役員である他のお母さん方に深々と頭をさげ、幼稚園を後にする。
ところで、あのオッサン園児には、私なりにユーモアのある本をチョイスし、手渡した。
かなり考え込んでしまったのだが、そんな素振りを見せないよう、私は頑張ったのだ。
結局のところ、その本を気に入ってくれたかどうかは、定かではないが……。
今思えば、あの園児が読みたがっていた本が、どんなものだったのか、気になって仕方がない。
大きな謎を持ち帰ってしまい、あんなに嫌だった委員の仕事も忘れ、むしろ残念な気持ちにさえなった。
言うなれば、まさに、ヤられた気分である。
ある日、本を一冊も持たずに、ひょっこりと普段見慣れない園児がやってきた。
ぽっちゃりした男の子だ。眼鏡は掛けてはいない。
「あのう」
上目使いであるが、眉毛が薄く、あどけなさゼロ。そして立派なオッサン口調だった。
「すみません。啓太くんは来ませんでしたか?」
「けいたくん? いやーまだ、来てないみたいだけど」
啓太は近所の活発な男の子だった。本を読むようなタイプではない。こんなところに来るんだろうか?
「本を──返しに来ませんでしたか?」
「本?」
「実はですね、啓太くんが、今日ここに来ることになってるんです」
「そうなの」
「僕は……啓太くんが返すのを待ってるんです。啓太くんが借りた本を、次に僕が借りようと思ってるんです」
今にも、恐縮です、などと言い出しそうな顔をしている。もはや、サラリーマン園児。
その園児が言うには、啓太くんとは同じクラスだが、話がついている訳ではないそうだ。それに特別、お友達という事でもなかった。
「ずっと気にしていた本なんです」
「へえー、そうなんだ」
「仕方がありません。それでは、代わりに、何かユーモアのある本はありませんか?」
「ゆ、ゆーもあ!?」
園児から、ユーモアという言葉が飛び出した。私は思わず情けない声をあげてしまった。
辛く長かった図書委員も、その日が最終日だった。
ありがとうございました、と役員である他のお母さん方に深々と頭をさげ、幼稚園を後にする。
ところで、あのオッサン園児には、私なりにユーモアのある本をチョイスし、手渡した。
かなり考え込んでしまったのだが、そんな素振りを見せないよう、私は頑張ったのだ。
結局のところ、その本を気に入ってくれたかどうかは、定かではないが……。
今思えば、あの園児が読みたがっていた本が、どんなものだったのか、気になって仕方がない。
大きな謎を持ち帰ってしまい、あんなに嫌だった委員の仕事も忘れ、むしろ残念な気持ちにさえなった。
言うなれば、まさに、ヤられた気分である。