マッタリ=1ダース【1p集】

第5話、君たちのオキテ

 スーパーで買ったみたらし団子。
 パックに三本、さらに一本あたり三個の団子が串に刺さっている。
 団子を包むタレは串と串の間で、ゼリーのように固まっていた。

「みたらし団子を買ってきたよ。甘いものが欲しくなったら、食べなさい」

 会社から帰ってきて、私は背広を脱ぎ始めた。

 妻と幼い娘は、そんなみたらし団子を前に目を輝かせていた。

「ねぇ、これでお抹茶しようか?」

 傍らから妻が言った。
 娘は早速、団子のパックを開けている。

「抹茶? そんなものあったかな?」

「貰い物の和菓子を戴く時に、お抹茶を添えると美味しいね、て貴方が言ったのよ」

 ああ、そうだった。そんな事を言った覚えがある。

「じゃあ、このみたらし団子も期待できるね。渋い抹茶とのハーモニー」

「今、お抹茶を入れるわね」

 妻がそう言ったので、私は慌てて制止した。

「あっ、ごめん。外で食べて来たから、まだお腹が一杯なんだ。僕の分だけ残しておいてよ」

 そう言った私は、結局、その日は団子に手をつけなかった。


 次の日の夕食後…。


「甘いものが食べたいな。僕の分のみたらし団子、残してあるよね?」

「ちゃんとあるわよ。ハイ、どうぞ」

 コトン。

 お抹茶が一杯。
 そして、妻がガラス戸棚から出してきた皿の上には、一本の串に辛うじて、みたらし団子が一つだけ刺さっていた。

「ああーっ、二個食べたなぁ〜!」

 妻と娘が、何の動揺もなく、私の様子を伺っていた。
 そして、幼い娘が口を開く。

「お父さん、ちゃんと三人で分けたのよ。昨日の分と今日の分…、でしょう?」

 昨日は三本を三人で分け、そして今日は三つの団子を仲良く家族で分かち合い。

 そういう、理屈らしい。

 私は娘の頭を撫で、美味しく最後の一つを戴いた。
 たった一杯の渋い渋い抹茶が、たった一つのみたらし団子を、信じられないくらいに引き立てた。

「おいしかった?」

 クリクリまなこの娘に、私は覗き込まれ、

「ありがとう」

 とだけ言った。


 そんな娘の成長を、妻はずっと柔らかい笑顔で見守っていた。

 私も負けずに、微笑み返した。



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