Glass slipper☩シンデレラボーイは甘く永遠に腹黒に☩
03☩策謀は秘密裡に☩
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会社から出て僕が向かったのは繁華街にある洒落たダイニングキッチン。
食事を堪能する客に視線を巡らせると、先に到着していた待ち人が際奥のテーブルから手を振ってきた。
「いきなり呼びだして悪いわね。」
華やかな装いで艶然と微笑む女性―――
「いえ。僕も貴女とお話したいと思っていたので。」
―――名取麗那さん。
「食事しても良いかしら?仕事終わってもう、くたくたなの。」
イヤラシくない媚びは暗に『当然奢りよね?』と言っている。
随分と“イイ女”なようですね、名取さん。
「ええ。差支えなければアルコールもどうぞ。それにしてもステキなお店ですね。こんな店を知ってる辺りがさすが名取さん。」
「雰囲気あるでしょう?料理やサービスも良くて、その割に値段も手ごろで女の子のツボを心得てるのよね。“美久”なんか喜ぶわよ。」
「…ええ。是非今度美久と一緒に来ますね。」
ああ。とても鋭い人だな。
たかが数回会っただけなのにちゃんと僕の気持ちを読んでいる。
その辺りの鋭さは須藤に通じるものがあるけれど、その上で取引をしようと目論む辺りやや僕寄りなのだろうか。
話が切り出されたのはメニューが揃った頃。
「単刀直入に言うわ。貴方に私の恋人になって欲しいのよ。」
僕は食事の手を止めてニッコリほほ笑んだ。
「お断りします。」