Glass slipper☩シンデレラボーイは甘く永遠に腹黒に☩
「冗談冗談。恋人のフリ、よ。」
「丁寧にお断りさせていただきます。」
笑顔で一刀両断したら流石の名取さんもちょっとばかり顔を歪めて手を止めた。
「イイの?アンタ、私に会社での美久をスパイして欲しいんでしょ?」
やっぱりと言うべきか、彼女は僕の目論みを余すことなく理解していたよう。
美久の同僚という位置にいて、名取さんくらい卒なく立ち回ってくれる協力者であれば僕にとっては好都合。
だけど。
「お断りします。例えフリとはいえ、美久以外の恋人なんて勤められません。」
きっぱり言えば、名取さんは呆れた顔をした。
「アンタねぇ…随分お固い事言うけど、これまでお綺麗なままでやってきたわけじゃないんでしょ?私の見立てじゃ、それなりに経験ありそうだけど。」
「協力の代償に。それも後腐れなく一度で済むような人しか相手にはしませんよ。」
「セックスはよくて恋人役は無理って、どんなんよ。」
アルコールが良い様に回ってきたのか幾分砕けてきた名取さんには苦笑するしかない。
「そうですねぇ、例えば僕にとってグラマラスな美女もダッチワイフもはたまた僕の右手も大して変わりはないです。それらは単に性欲を吐くだけの道具です。」
…美久以外。
美久以外の事で僕の心は踊った事がナイ。
「先ほども言いましたが一度限りの事でしたらともかく、恋人となると色々下準備も大変そうですし、そんな煩わしい事をフリだけの相手に尽力したくないです。」
名取さんは、はぁ、と面倒くさそうに溜息を吐いて、何かを考え込むように押し黙った。
その顔を見ながら今度はこっちから切り出す。
「彼氏役は受諾しかねますが、何か協力は出来るかも知れませんよ。」