Glass slipper☩シンデレラボーイは甘く永遠に腹黒に☩
美久は一度大きく深呼吸して、勢いよく言った。
それは僕の危惧とはまるで別の、だけど、僕に衝撃を与えるには十分すぎるものだった。
「私の恋愛の邪魔したの、どうして?」
なんで…………それを…?
動揺を隠すのは得意だけど、美久には通じない。
愕然とした美久の顔に、僕の些細な動揺を見抜いたのだという事が知れた。
もう、オシマイ。
足元から崩れるような消失感。
ずっと気付かれないままで済むなんて思ってたワケじゃない。
気付いた時、美久に嫌われる事も分からなかったワケじゃない。
だけど、…だけどやっぱり僕は美久が誰かの物になるなんて嫌だったんだよ。
こんな時に、久寿軒さんが言った言葉が脳を掠める。
『でも…貴方の気持ちが変わらずとも、相手の方もそうだとは限りませんわ。』
さすがにアレは刺さった。
確かにその言葉通り。
僕が幾ら美久を好きでも美久は僕じゃない誰かを選ぶ。
どれだけ絆を深めてみても所詮美久にとって僕は弟で、僕の物になってはくれない。
『どうせなら駄々を捏ねてみたらどうだ。』
失意の僕に然もあっけらかんとそう言ったのは須藤。
美久に慕われたくて頼りにされたくて“イイ弟”を続けてきた。
だけど、どうせこれで嫌われてしまうなら―――
これで美久が離れてしまうのなら―――……
息苦しい胸にほんの少し空気を呑みこんで、その言葉を吐き出した。
「僕と結婚して。」