Glass slipper☩シンデレラボーイは甘く永遠に腹黒に☩
―――柏木悠里という男は
絵本から抜け出た王子様のように甘く端正なマスクに優雅な物腰。
頭の回転もイイし、気配りも細やか。
しかし杓子定規な優等生というわけでもなく、彼に密やかに混ぜられたスパイスのような灰汁も実にいい意味での人間味になっている。
非の打ちどころがない。
こんな完璧な人間も世の中にいるんだな…。
入社時に悠里に出会った須藤は本気で感心した。
ただ一点を除いては。
須藤がそれを知ったのは入社してそう遅くはなかったが。
ただ一点
常識と礼節を兼ね備えた現代版王子様は、己の義姉の事になると箍が外れる。
それはもう『ザンネン』では言い表せないレベル―――いっそ『ヤバい』領域で。
もはや『好き』や『愛してる』などという言葉で言い表せるものではなく、彼女の存在が彼の全てと言える程に。
女の事じゃないにしろ、そこまで盲目になった経験もない須藤はその苛烈さに呆れもするが感心もしたりして――――
「て、どこへ行く。」
不意に立ちあがった悠里を須藤はがしっと掴む。
悠里はにっこりと微笑んで言った。
「一身上の都合により早退させていただきます。」
「あほか。ネーチャンのストーカーしに行くなんて理由が通るか。」
「人聞きが悪いな。ストーカーじゃなくて護衛だよ。」
柏木悠里、本日も絶好調にアブナイ男だ。
ぐずる悠里をなんとか丸めこみ仕事に戻した須藤は深く深く溜息を吐いた。
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