Glass slipper☩シンデレラボーイは甘く永遠に腹黒に☩


「うん。会社で唯一直属の後輩である久保塚君。彼、新米だけどしっかりしていてとても頼りになる子だよ。」


柏木さんっ、笑顔と行動が合ってナイッ!!

ギリギリギリギリと圧迫を加えられる久保塚の手は今やエクソシスト並に反りかえっている。

イ・タ―――イッ!!

ジタバタもがく久保塚を余所に、彼女がイイ事を思いついたとばかりに顔を輝かせる。


「態々忘れ物を届けてくれたんだからお家に寄ってもらったらどう?お礼にお茶ぐらいお出ししなきゃ。あ。なんならお夕食―――」


手からギシッという音がして、久保塚が「ぎゃうっ」と叫ぶ。

それに被せるように悠里が蕩けるような笑顔を彼女に向ける。


「美久ってばそーいう所ホント律儀で気遣い上手だよね。でも久保塚君、若者だしこの後も色々予定があって忙しいよ。……ネェ?」

「ふ、ふぁっ、ハイィッ!残念ですがそりゃもうとんでもなく忙しいですッ!」


この時久保塚に一大事があるとすれば、可及的速やかにこの王子様の前から逃げる事だ。

もはやマニア熱を充足している場合でもナイ。

察しの良い後輩の返事に指への迫害がすっと弱まった。

その瞬間、久保塚は早口に挨拶を捲し立てて脱兎のごとく逃げた。




☩ ☩ ☩


「――――という事がありました。」

久保塚の説明に二人は返す言葉もない。


(相変わらずアブナイやっちゃ)

(つか、久保塚。知らなかったとはいえ無邪気に地雷踏みつけ過ぎだろ)


二人が内心でやや呆れ気味のツッコミを入れている所に、キィッと扉が開く音がして「おはようございます」と入ってきたのは件の男。



< 154 / 333 >

この作品をシェア

pagetop