Glass slipper☩シンデレラボーイは甘く永遠に腹黒に☩
その言葉に応える事無く木戸さんは身を翻し、私の元にやってきた。
「さっき俺が言った事、分かったな?オマエならちゃんと向き合えるから、頑張って来い。」
真っすぐの力強い笑顔に胸の奥が熱く震える。
木戸さんが信じて背中を押してくれるから、頑張れる。
私は大きく頷いて、立ち上がった。
☩ ☩ ☩
木戸さんにお礼を言って部屋を後にした私はこれから直面する闘いの事で一杯一杯で。
だから、パタンと閉じた扉の向こうで木戸さんが「あーっくそ。」と頭をガシガシ掻いて呻いていたのも知る由はなく――――
木戸がハァッと溜息を吐いて思いだしていたのは随分昔の話。
箱の中に入っていた靴の左右のサイズが違っていたと店に客が怒鳴りこんできた時の事。
間違えたのは当時少しの期間だけ入っていたバイトの女の子で、ヒステリックに罵り声を上げる客にただ泣いてうろたえるばかりだった。
偶然店に寄った木戸が責任者として出て行く事でその場はなんとか治まったのだが。
同じ時間帯に仕事に入っていたというだけで美久も一緒に罵声を浴びていた。
コチラの失態とはいえ、頭ごなしの罵声には男の自分でも堪えるというのに、美久は神妙な顔はしていたものの相変わらずほにゃっとして見えて。
基本的に鈍いのか、所詮間違えたのは自分じゃないと人事でいるのか…。
しかし、そうではなかった。