Glass slipper☩シンデレラボーイは甘く永遠に腹黒に☩
一頻りの業務を終え木戸が帰るために従業員用の通路を歩いていると、物陰から小さな嗚咽が聞こえてきた。
怪訝に思いながらそっと覗いてみると小さな身体が蹲っていた。
どうやら電話の最中らしく。
『ぅっ……怖かったよぉ…ちゃんとチェックしなかった私が悪かったんだけどっ……凄く怒られて……ぅえッ』
泣きながら電話の相手に一頻り弱音をぶちまけた所で、美久は徐にゴシゴシと涙を拭いた。
『んっ、……ダイジョーブ!私頑張れるから。聞いてくれて有難う。』
その後仕事に戻った美久は、さっきボロボロ泣いていた痕跡もなく持ち前のほにゃほにゃとした雰囲気で頑張っていた。
美久は決して鈍いワケでも堪えなかったわけでもなかった。
それでもそれを微塵も見せずに“いつも通り”を振る舞って見せる。
その強さと前向きさが木戸を引きつけた。
―――それと同時に
誰にも見せない自分の弱さをああも素直に曝け出せる相手が美久にはいるのだと、心の奥に引っかけた。
それが誰なのか、その時はまだ知る由もなかったけれど。
「……俺じゃ泣かせられない、か。」
この部屋に来て木戸を前にして頑なに唇を引き結んで涙を堪えていた美久の顔を思い出し、深い溜息を零した。