Glass slipper☩シンデレラボーイは甘く永遠に腹黒に☩
「幼い頃からずっと大切だと思っていた気持ちを大人になってから恋愛と錯覚しているだけです。そんなの本当の愛じゃございませんわ!」
「貴女が何をどう思おうと勝手ですけれど、僕の気持ちはまるで動きませんから。失礼します。」
腕に縋りつく久寿軒さんをすげなく振り払って、逃げるように点滅している横断歩道を足早に進んだ。
「ま、待って下さい、柏木さん…!」
擦れ違う人に僅かに出遅れながらも久寿軒さんが後を追ってくる。
ああ…本当に面倒な人だな。
そんな事を思って重い溜息を吐いた時、耳触りな車の音を聞いて視線を向けた。
大通りを一台の車が減速もしないで交差点に向かってくる。
歩行者用の信号は既に赤に変わって、自動車の信号も直ぐに変わるため慌てたのだろう。
植え込みから左折のウィンカーが点滅しているのを確認した時には車はタイヤを唸らせて横断歩道に飛び込んできた。
「っ…あぶな…………!」
僕は至ってフツーの人間だ。
思わず、突っ込んできた車の矛先にビックリして立ち竦む人がいてそれを助けようとするのは極普通の感覚だと思う。
例えばそれが普段鬱陶しいと思う相手であっても。