Glass slipper☩シンデレラボーイは甘く永遠に腹黒に☩
「遠慮なく上がらせてもらうぞ。…ふん。中に入るのは初めてだな。」
靴を脱ぎながら誰に言うとはなく呟いた須藤君は視線を感じて顔を上げた。
先に上がって拾われてきた子犬のようにきょろきょろしていた悠里が気付けばじっと玄関先の二人を凝視している。
「どうした?」
その問いに悠里は白昼夢から覚めたみたいにはっとして、ぎこちなく言葉を紡ぐ。
「あっ、いえ…スミマセン。」
……自分の家という自覚もないのに…変だな。
そんな呟きを耳にして、須藤君と木戸さんは視線を合わせて複雑な苦笑いを浮かべた。
悠里が不図思い付いたように怪訝な顔を上げる。
「確か…須藤さんとはかなり親しい友人関係だとお聞きしたんですが、それなのに僕はここへ招待した事は無かったんですか?」
本当にアンタは親しかったのか、と疑問が透けている顔に須藤君はふっと鼻で笑う。
「無いな。親しかったのは事実だが、以前のオマエはそれはもう徹底した秘密主義でプライベートには一切踏み込ませなかった。まぁ、覚えてないだろうが。」
「…秘密主義……。」
「俺もここへ来るのは初めてだ。ああ、悠里君は一度俺の家に来た事があったな。」
「………………。」
じゃ、お邪魔します、と言って中へ入っていく二人を悠里はやや複雑な気分で見詰めた。