Glass slipper☩シンデレラボーイは甘く永遠に腹黒に☩
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夕食の支度に取りかかる前に、手持無沙汰になるだろうみんなにコップとビールの御用意しなきゃね。
缶ビールとグラスを乗せたお盆を手にリビングを振り返って、暫し動きを止めた。
私は慌ててシンクに回れ右した。
その不自然な行動に気付いた三人の視線を背中に感じて、誤魔化すのは不可能かと、唐突に目じりに溢れた涙を拭って照れ笑いで振り返る。
「えへ。ごめんなさい。……悠里が戻ってきたって改めて実感したら、なんか嬉しくなっちゃって。」
この部屋に悠里が居る。
もし運が悪ければ、もう二度とこの光景は見られなかった。
会えなかったかもしれないんだもの。
そう改めて思ったら、今家に悠里がいる奇跡に胸の奥から熱い物がこみ上げてきちゃったんだ。
…それに。
記憶は無く、多分偶然なんだろうけど、悠里が座っていたのはずっと彼の定位置だった場所。
以前の悠里を思い出し、胸が苦しくなる。
「姉さん……」
そんな私を見詰めて、悠里も釣られるように切なげに目を眇める。
「心配かけて、スミマセン。」
記憶がない悠里にとって私は赤の他人と等しく、情報で得ただけの“姉”と言う存在。
敬語や態度にまだまだ戸惑いや隔たりは垣間見られるけれども、そんな悲しげな表情を見るに私に心を砕いてくれようとしているのが分かるから。
「もー!無事帰ってこられたんだから良いの!今日は退院のお祝いなんだから主役は元気良くなくっちゃね!」
業とらしい程明るく言って、みんなのグラスにビールを注ぐ。