Glass slipper☩シンデレラボーイは甘く永遠に腹黒に☩
見送るためにマンションから外へ出るとしっとりとした夜の空気が身体を包む。
「今日は本当に有難うございました。」
「ああ。」
並んでゆっくりと歩きながら取りとめなく言葉を繋ぐ。
「ふふ…前は木戸さんって悠里の事苦手なのかと思ってました。けど、なんか今日はまるで本当の兄弟みたいでしたよ。」
「……あ゛ー、かもな。俺に本当の弟がいるんだが、悠里君にちょっと似てる、かな。俺に対する態度とか。目上に対するコンプレックスというかライバル視とか…」
「それに腹を立てないで受けとめるんだから木戸さんってやっぱり大人ですよね。」
「いやいや。流石にムッとする時もあるけどな…。気持ちが透けて見えちまえばしゃーねぇなって気になる。時々憎たらしくてもやっぱ可愛い弟なんだよな。」
「木戸さんって根っからのお兄ちゃん気質。」
「そうかもな。」
だから、とでも続きそうな雰囲気で木戸さんは足を止め、私に向かって「ん」と両手を広げて見せた。
………深呼吸?
きょとんとそれを眺めていると木戸さんは「や、そーじゃなく…」と言って焦れたように手を伸ばした。
ぎゅっと温かな腕に包まれる。
「き、木戸さ―――…」
「あんまり無理するな。」
いきなり抱きしめられてあたふたする私の胸にしっとり染みた声に動きを止める。
「悠里君に忘れられて、苦しく無い訳ないだろ。傷付いてくるくせに彼の為に無理して笑うオマエは偉い。だけどそんな我慢ばっかりしてたらオマエが苦しいぞ。せめて俺の前では泣いたっていいんだぞ?」