Glass slipper☩シンデレラボーイは甘く永遠に腹黒に☩
とんとんと子供をあやすように背中を叩く感触と温かな人のぬくもりに心が穏やかになっていく。
だけど、促された涙が出る気配は一向にない。
泣いて泣いて泣き喚いて、この身体に溜まった悲しい気持ちを出してしまえたらどんなに楽なんだろうと思うのに、一向に湧いてこないの。
―――悠里なら簡単にその涙を掬いだしてくれるのに。
シクリと痛む胸に蓋をするようにそっと目を閉じ、私を甘やかしてくれる腕から抜け出す。
「有難うございます、木戸さん。…でも姉弟に戻る事は私が自分で決めた事だから。」
大丈夫です、と笑う私を木戸さんは複雑そうな顔で見詰める。
暫くしてその口が思い立ったように動いた。
「俺と付き合わないか。」
……へ?
今から何処へ?
私が疑問に思ったのを読んだように木戸さんは「だから、そうじゃなく…」と肩を落とす。
「恋人として付き合ってくれって言ってるんだ。」
「へ?…………ええぇっ!!」
な、何でいきなりそんな展開に!?
「そんなに驚くか?一度は付き合って、別に嫌い合って別れた訳じゃないだろ。」
「そうですけどっ…でも、あの…」
「…別れた原因になった悠里君とはもう関係を戻す気はないんだろ。だったら…」
自分で決めた事なのに…
改めて言われてグッと身体に力が籠る。
悠里と私の関係は姉弟という平行線をずっと辿ってこの先二度と交わる事は無い。
そんな事実に胸が痛くて苦しくなる。
頬を包む温かな感触に顔を上げれば、木戸さんと目が合って。
その真っすぐで真剣な瞳に囚われて動けなくなる。
「全力で守る。だから改めて俺と付き合ってくれ、美久。」