Glass slipper☩シンデレラボーイは甘く永遠に腹黒に☩
煮え切らない返事は、どんっ、と背中への衝撃が遮る。
「よっ、幸せ者。こんな美女から誘われて断るわきゃねーよな。」
「デートかぁ~。それで柏木さんどことなくソワソワしてたんですね。」
………や、違うんですけど。
寧ろ早く家に帰りたくて堪らない心境なんですが?
だけど、マエリさんは愛した記憶もないながら一応僕の彼女らしいし、これという理由もなくデートの誘いを断るのは悪いだろう。
渋々ながらも彼女と夕食に行く事になった。
はぁ……マエリさんは恋人として申し分ない。
整った容姿も然ることながら、育ちの良さからか所作も上品だ。
松葉杖で不自由な僕に対して色々先回りに世話を焼いてくれたりもして、気遣いも出来る。
―――なのに、何故だろう……
「悠里さん。」
夕食を終え、店を出て何気にタクシー乗り場へ向かって歩いていると、それを目前にして甘えた声に引き留められた。
片足の僕を気遣いながらもマエリさんが僕の胸に縋り寄ってくる。
ふんわり香る彼女のトワレ。
僕を見上げる扇情的な瞳。
「…まだ帰りたくないわ。」
――――何故なんだろう。
僕は毎度の事ながら、熱い視線を向ける彼女に笑顔を返しつつ、恋人の誘惑にドクリとも高鳴らない胸に内心困惑する他なかった。