Glass slipper☩シンデレラボーイは甘く永遠に腹黒に☩
「そうだな…。その酒を飲み終えたらその問いに応えてやってもイイが―――…」
言葉が終わるや否や、表面張力気味の酒を一気に喉の先へ流し込み空になったグラスをカウンターに置いた。
「記憶は無くとも酒の強さは相変わらずか。」
「教えて下さい。」
「折角なんだから少しは会話を楽しめよ。」
「教 え て 下 さ い。」
須藤はやれやれと肩を竦めて、自分のお猪口を煽った。
「逆に聞きたいもんだな。オマエはそこまで来て何故何の行動も起こさない?」
その言葉に僕はぐっと拳を握った。
それまで強気に須藤に当てていた視線を力無く落とす。
「……これでも僕だって自分の症状について調べてない訳じゃないんですよ…。」
記憶喪失の人間が記憶を取り戻した際、その間の記憶をすっかり忘れる人、しっかり覚えている人様々で。
覚えているにしても夜見る夢のように別次元の記憶として残る場合もあるという。
「仮に今の僕が姉を唆して手に入れたとして、記憶が戻った時にどうなるんでしょう。」
姉と一緒ならどんな罪を背負って生きるのも厭わない。
けれど
いつか記憶が戻った時僕は、姉弟で求め合った罪を姉だけに押し付けて、僕だけがマトモな世界に戻る。
彼女を愛した記憶をすっかり幻にして。
“弟と愛し合った”という背徳の罪を姉一人に負わせて。
絶対忘れないなんて根性論が通用すればいいけれど、現実はそうじゃない。
「僕の身勝手な感情で姉を苦しめるなんて、…出来ません。」
触れてみたいという欲求と並行して彼女を傷つけるのを確かに恐れている。