Glass slipper☩シンデレラボーイは甘く永遠に腹黒に☩

悠里の足から靴を脱がせ、厳かに白い靴を履かせる。


「…………あ。」


そんな声がして顔を上げれば、私を見詰める悠里と目が合う。

だけど悠里の視線はどこか遠くを見るようで。

その焦点がゆっくりと合う。

ほんの少し頬を染めて、狂おしそうに胸の辺りを押さえる。


「…僕はこの光景を見た気がします。ここがぎゅっとしました。」


ドクンと胸が疼く。

悠里……記憶が戻ったの?

固唾を呑んで悠里を見詰める私。

悠里の記憶は相変わらず失ったまま。

それでも時々何かの拍子に、過去の記憶を断片的に思い出すみたいだけど。

それは合成写真を見せられた時みたいに悠里にとっては不確かで、現実味の無い単なる映像でしかないみたい。

悠里は暫く記憶を手繰ろうと難しい顔で押し黙っていたけれど、やがて弱弱しく首を振った。


「……スミマセン。やっぱりそれ以上は思い出せないです。……とっても大切な思い出の筈なのに。」



胸に置いた手が悔しげにぎゅっと握られる。

それを見て、私は堪らず抱きついた。


「大丈夫だよ!記憶があっても失っても、悠里は私の一番大好きな人なのは変わらないから。だから思い出はこれからもっと一杯、一緒に作ればいいんだから!」


そうと意識しないままに積み重ねてきた二人の幸せな記憶。

それは決して要らない物なんかじゃなかった。

だけど、それよりも大切なのは悠里が居てくれる事。

今、そしてこの先―――

一番なのはいつだって悠里なの。

失った記憶よりずっと大事な物だから。



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