Glass slipper☩シンデレラボーイは甘く永遠に腹黒に☩
思い出してまた目を潤ませる私を、悠里はよしよしと優しく撫でる。
「仕方ないね。彼はきっと美久の本当の王子様じゃなかったんだよ。」
「…私の王子様。…本当にどこかにいるのかな。」
弱気になるのも無理はナイ。
学生時代から、好きな人が出来ても他の子にあっさり持って行かれたり、運よく恋人になれてもまるでラブラブしないまま疎遠になったりと“付き合った”にカウントされないようなお付き合いしか出来てないんだもん。
悠里はその度に『本当の王子様じゃなかったんだよ。』と慰めてくれるけど、この期に及んでは、ひょっとしたら私に原因があるんじゃないかと不安にならずにいられない。
ともかくこのままでいたら結婚も出来ず寂しい孤独死コースしかない。
悲壮感に暮れていると、チャイムもなく玄関のドアが勢いよく開く音が聞こえた。
「柏木美久―――――――っ!!」
ひぃ!!
近所迷惑な怒声と共にズカズカと近づいてくる足音。
聞き覚えのある声に私はプルプル震えながら悠里にしがみ付いた。
ばーんと寝室のドアを開け放ち仁王立ちした女性。
黒い艶やかな髪を大きくカールさせて、ぱっちりとした少し釣り上がり気味の瞳にバシッと長い睫毛。
出るトコ出て、絞まるとこ絞まったナイスバディーで、ブランドの服もバッチリ様になっているセレブ系美人さん。
「アンタ、この忙しい時に仮病でサボりとかイイ度胸じゃない。」
「け、仮病なんかじゃ…」
「黙らっしゃい!!たかが失恋如きで仕事サボってんじゃないわよ!!」
ぴぃ…っ!!
事が起こった日、私はそれ以上どうしても仕事を続けることが出来なくて、昼過ぎに早退させてもらった。
泣き崩れた次の日は不幸中の幸いというか休日で、それでも回復しなかった私は今日も仮病を使って休んでしまったのだ。