Glass slipper☩シンデレラボーイは甘く永遠に腹黒に☩

☩ ☩ ☩


「しかし、本当によく効くな。その最終兵器。」


廊下を歩きながら隣の須藤がしみじみ呟いた。

作業室に呆けた幸村さんと久保塚君を置き去りに総務課へ向かう道すがら。

遠距離出張ならいざ知らず、市内の取引先への出張費くらい自腹を切るより総務課へ報告する手間の方がはるかに面倒だとは思う。

けれど、外出の証明というか『この時間何やってたの?』と勤務状況を問われる際の証明となるのできっちり手続きして下さいというのが会社側の言い分。

尤も緩い会社なのでそんな質問をされたというのも聞いた事がナイけれど。

ちなみに須藤は先日頼んでおいた名刺を取りに行くそうだ。


「所で…オマエが直々に出向くなんて珍しいな。それこそ“最終兵器”なんだろうに。」


須藤が言っている『出向く』とは出張のことじゃなく、美久の職場の事だろう。

確かにこれまで美久の職場に行くのは極力避けてきた。

僕が出向くのが牽制になるのは分かっているけれど、注目されれば後々事が起こった時に動きにくいし、効果も薄れる。

切り札は常に最後に取っておくものでしょ?

興味を隠そうともしない須藤に意趣返しで若干の厭味を込めてやる。


「ああ。それはね、君の用意してくれた駒じゃ少々力不足だったからね。」

「そりゃ失礼。」


全く悪いと思ってなさそうな顔で謝る須藤に小さく肩を竦めた。



「いや、彼女はそれなりにうまくやってくれてたと思うよ。ただちょっと…今回は相手が悪かったね。」

「ほう。そんなにイイ男か。」



思い出すだに忌々しい男を思い出し、僕はうんざりと溜息を吐いた。


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