Glass slipper☩シンデレラボーイは甘く永遠に腹黒に☩
「遅番なんだからなおさら迎えに行かなくっちゃでしょ?」
「歩いてたかが十五分程度の距離だろうが。」
「タクシー使ってって言ってあるけど、夜道を一人で帰らせるなんて心配で堪らないよ。」
「相変わらず過保護だな。」
須藤は呆れた風に言って、空になった自分のお猪口にも酒を継ぎ足した。
「あの姉ちゃんが27にもなって甚だ大人として頼りなさげなのはオマエの所為だな。」
「それがホントならどんなにイイか…。」
お猪口の中の水面を見詰め、ボソリと小さく呟く。
「あれでいて美久って実はフツーに何でも出来るんだよねぇ。確かに手際は僕より断然悪いんだけどもね。」
料理も出来るし、掃除や洗濯も、仕事だってそこそこに出来る。
それらを手際が悪いながらも楽しそうに一生験命やるんだ。
「出来るのが分かっていて率先してオマエがやるのは甘やかしているというより、自己満足か。はたまた信頼の摺り込み、か。」
お猪口を傾けながら須藤が放った言葉に、僕は答えずお猪口を煽った。
酒が喉を火照らせ落ちて行く。
その熱を逃がすように深く溜息を吐く。
美久なんてなんにも出来なきゃいいのに。
そしたら僕が何でもやってあげるのに。
甘やかされるのに慣れ切って、いつか一人じゃ何一つままならない状態になって、僕を求めてくれればイイ。
「美久なんて僕がいなきゃなんにも出来なくなればイイのに……。」
須藤はちょっと嫌そうな顔をしながらもあえてそこには触れず「まぁ、呑め」と酒を促した。