Esperanto〜消える想い出〜
「おかえり」
玄関を開けると、エプロンに身を包んだ薺と目があった。菘は軽く目を伏せると薺を見詰める。
「ただいま。・・・もう、お姉ちゃんはそんなことしないでいいのに」
薺の背後に回り、エプロンの紐を解く。そのまま首筋に顔を寄せ首筋を舐めた。
「・・・菘」
「嫌なら言って」
薺の声を遮り耳朶に吸い付く。薺は身を震わせるとされるがままに任せた。
「……ゼ、・・・お姉ちゃん」
頬を舐め、鼻に甘噛みする。そのまま下へと愛撫し唇に唇を重ねる。菘はゆっくりと口腔を弄ると薺を深く犯した。
「す、ずな・・・っ……もっと」
「……」
natureになっても、Austinとしての感覚は消えていない。そのことに気付いた時、菘は絶望した。
元来、彼女達Austinとnatureとの生殖行動は根本から違い、Austinは互いの唾液を交換するだけで生殖を行ってきた。
「だめだよ、お姉ちゃん。……私達は、『姉妹』なんだから・・・」
natureとしてこの惑星《astral》での生活が決まった時、惑星《astral》についてのことは粗方調べた。惑星《astral》は『姉妹』という関係の人とは接吻やそれ以上のことをしないということや、『姉妹』という関係のこと、そしてnatureの生殖方法。
本当にzephyrがnatureに『成った』のかを確認するために、ある日quoteは悪戯で口付けをした。もしnatureになどならず、Austinのままだったら情緒指数が著しく上がり一種の保身行動を取るはずだからだ。案の定保身行動は取られず、情緒指数も一定だと思われたが暫くして変化が表れた。それまで一定だった脈拍が早くなり呼吸数も増え、Austin同士が口付けした時と同じ反応を示したのだ。
菘に『成って』zephyrの下へ向かった時、quoteとしての自分と菘としての自分との感覚に揺れた菘(quote)は、quoteだった頃と同じように薺に口付けした。勿論菘はAustinとしての意識を持っているのだから情緒指数や呼吸数も当たり前に上がる。
その時にAustinとしての感覚が残っていることを知った菘は、極力『姉』との接触を避けていた。
「……ごめんね、zephyr」
「え、」
菘は掠れた声で呟くと薺の声を無視し再び外へ出た。