もう、明日がないなら…
　車を降り、連れて来られた場所は、閑静な住宅街に建つ豪邸の前だった。

　周りの民家も素晴らしい家ばかりであったが、目の前に建つ家は、その比にもならないほどのお屋敷だった。それは白金にある庭園美術館を思わせるような、古めかしくもあり、モダンな洋館だった。

「我が家にようこそ、お姫様」

　雄哉のすらっとした長い指が彼女の手を優しく握ると、彼女をエスコートしながら立派な門をくぐる。そして、重厚な大きなドアの鍵穴に鍵を差し込むと、錠の開く重たい音が鳴り響いた。彼は、アンティーク調に施された金色のノブに手をかけると、そのドアをゆっくりと開ける。

「さ、どうぞ」

　中に美妃を促し、えんじ色のカーペットの上で待たせると、後ろからゆっくりと閉まるドアの重い音が聞こえてきた。

　美妃は玄関を見渡すと、目の前にはやはりアンティーク調に揃えられた家具が静かに収まっていた。飾られている調度品も、かなりの価値のものばかりなのだろうとうかがえる。気分はとても落ち着かなかった。

「まずは、君の部屋に案内しようか」

　あまりの場違いさに、彼女は気後れしていたが、雄哉が歩き出すと必死について行った。

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表紙・目次

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