もう、明日がないなら…
十 あの日の真実
 美妃は、日記帳を閉じた。目からは何筋もの涙が流れては落ちていった。

「その日記は僕の母が死ぬ直前まで書き残した遺書みたいなものさ。その後、子どもを産んだ母さんは、産まれたばかりの子どもを春日幸太郎に取られ、子どもの出来なかった息子夫婦に養子縁組の手続きを取った。それが美妃、君さ」

 薄暗いリビングで彼はやたらと目をギラギラさせながら笑う雄哉に、美妃はにわかに信じられなかった。彼は続けた。

「君は、僕と姉弟だ。父親が違うけどね。僕は血のつながった姉を抱いたんだ。君の体の全てを支配した。…屈辱的だとは思わないか?」

 不適に笑う雄哉の顔は、憎しみに満ちていた。その横で、佳美は「最悪な趣味ね」と鼻で笑っている。美妃はそんな彼のその顔を見た時、頭の中はまた光でいっぱいになっていたのだ。

(この形相を… 見たことある気がする…)

 彼のその醜い顔を追いかけて、ハイスピードで微かに残る記憶が過去へと逆戻りしていたのだ。

(ダメ…、解らない…!!)

 美妃は曖昧な記憶を振り払うように首を強く振った。
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