もう、明日がないなら…
「…おかえり、美沙」

「ごめんなさい…」

 美沙は彼の胸に顔をうずめ、彼の背中に回した手の力をいっそう強くした。とても懐かしくて暖かい。彼の優しい陽だまりのような匂いを感じていた。

「謝らないでくれ。…君を守れなかったのは、俺の方なんだから」

「だけど…!」

 涙混じりに叫ぶ美妃を、雅臣はさらに強く抱きしめた。

「やっと戻ってきてくれた…」

 彼女の体温を確かめるように彼は美沙を抱きしめていたが、やがて視界が狭くなっていった。そして力が抜けて行くのと同時に、膝から崩れたのだ。彼の目の前は、暗闇よりも暗く、意識がなくなっていった。

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